– PAT使用目的:通常は臨床を選択。その他の使用では「自らの研究」、「教育」、「練習」、その他を選択してください。「臨床」以外が選択された場合、情報などは集積されません。
– 薬物モデル(成人または小児):薬物モデルは、デフォルトでvancomycinAdult.PAT2024(18歳以上の成人用)が選択されています [2]。年齢を入力すると、年齢に応じたモデルが自動で選択されます(18歳未満でvancomycinPediatrics)[3]。Ver. 3.0以前のPATでのモデルを使用したい場合は、vancomycinAdult.1998をご使用ください[4]。
vancomycinAdult.PAT2024の式[2] |
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CL (L/h) = 4.9×(Ccr/120)^0.959(Ccr>167.8の場合、Ccrは167.8で固定)【36.8%】 Vc (L) = 32.1×(BW/60)^0.532【33.3%】 Vp (L) = 58.2×(BW/60)^0.348【72.8%】 Q (L/h) = 8.33【固定値】 残差変動 18.1% |
vancomycinPediatricsの式[3] |
CL (L/h) = 0.248×BW^0.75×(0.48/Scr)^0.361*(ln(Age)/7.8)^0.995【35%】 Vd (L) = 0.636×BW【18%】 残差変動 29% |
vancomycinAdult.1998の式[4] |
CL (L/h) = 0.0478×Ccr【38.5%】 K12 (/hr) = 0.525【固定値】 K21 (/hr) = 0.213【28.6%】 Vss (L) = 60.7 L【25.4%】 残差変動 23.7% |
Age:生後日齢(PATは小児年齢を内部にて生後日齢に変換していますので、PATへは年齢として(月齢/12 or 日齢/365)でご入力ください。例:3か月→0.25歳)
– MIC:AUC/MICの値が変化して計算されます。臨床的には1μg/mLを入力しておくことを推奨します。
– 年齢:1歳以上はそのまま年齢をご記入ください。1歳未満は、月齢/12 or 日齢/365でご入力ください(例:3か月→0.25歳)。
– 体重:実測体重をご記入ください。ただし過度な浮腫、肥満、やせではバンコマイシンクリアランスの推定に誤差が大きくなることをご注意ください。
– Scr(mg/dL):治療開始時でなく直近の血清クレアチニン値(mg/dL)を入力して下さい。ST合剤などクレアチニンの尿細管分泌を阻害する薬物により、eGFRが低下せずに血清クレアチニン値が高値となることもありますのでご注意ください。
– Ccr(成人のみ, mL/min):Cockcroft-Gaultの式による値を表示します。蓄尿によるクレアチニンクリアランスがあれば、その値を直接入力してください。
– 著明な筋肉量低下:次の病態に当てはまる場合にチェックしてください。筋原性疾患(筋ジストロフィー)、神経原性疾患(完全麻痺を伴う脊髄損傷、脳性麻痺、筋萎縮性側索硬化症(ALS))、長期臥床を伴う炎症性疾患(多発性筋炎・皮膚筋炎)
– その他の筋肉量低下:入院前からの全介助を要する長期臥床、14日以上のICU在室など、筋肉量低下やサルコペニアが考えられる場合にチェックしてください。リハビリ例では観察による筋肉量およびサルコペニア評価があればそれを優先してください。上記「著明な筋肉量低下」にチェックが入る場合は、この項目はチェックする必要はありません。
重要:「著明な筋肉量低下」、「その他の筋肉量低下」にチェックした場合
・腎機能推定誤差が大きい可能性についてResultへ注意喚起を行います。シスタチンCや身長が入力されていない場合には、血清クレアチニン値が0.6mg/dL未満の場合に一律に0.6mg/dLへの補正(round up)を内部計算にて行います(成人のみ)。この血清クレアチニン値補正を必要としない場合、「Scr<0.6mg/dLの場合に0.6mg/dLとする(成人のみ、内部計算で補正)」のチェックを外してください。
・vancomycinAdult.1998のモデルをご使用の際、血清クレアチニン値により計算されたクレアチニンクリアランス>85 mL/minの場合に、バンコマイシンクリアランスを3.51 L/hとします[2]。
高齢や低体重のみでルーチンにround upを行うことは推奨されていません。ただし、急性腎障害リスク(AKI)を有する場合、75歳以上(日本老年学会)や、やせ過ぎ(body mass index <16, WHO)の症例、またはAKI回復後早期では、安全性の面からround upを考慮してもよいと考えます。
・逆に、敗血症例ではクレアチニンクリアランスが亢進している場合があり(augmented renal clearance)、round upが適切ではなく腎機能の過小評価となる場合がありますのでご注意ください。
– アルブミン(g/dL):2.5 g/dLを下回る値の場合[4-6]は、薬物動態パラメータの推定誤差が大きい可能性についてResultへ注意喚起を行います。
– 身長(cm):Body mass index(BMI)を表示します。成人において肥満(BMI>30)、痩せ(BMI<17)等の場合に、薬物動態パラメータの推定誤差が大きい可能性についてResultへ注意喚起を行います。
– シスタチンC(mg/L):値があれば入力してください。eGFRについて、シスタチンCに基づいた算出(Horio式)[7]を行い、身長と体重による体表面積(Dubois式)[8]と共にクレアチニンクリアランスを計算[9]します(成人のみ)。
– ICU・小児ICU:ICUや小児ICUに入室している場合にチェックしてください。ICU患者と一般病棟患者の間の薬物動態の変化が報告されており、推定誤差が大きい可能性についてResultへ注意喚起を行います。
– 熱傷:熱傷にて治療中の場合にチェックしてください(植皮が終了して経過が良い場合は対象外となります)。熱傷患者と一般病棟患者の間の薬物動態の変化が報告されており、推定誤差が大きい可能性についてResultへ注意喚起を行います。
– 尿崩症:尿崩症にて尿量が過剰に増加している場合にチェックしてください。推定誤差が大きい可能性についてResultへ注意喚起を行います。
– 治療後Scr上昇および低下:投与開始時と最新の血清クレアチニン値(Scr)が、±0.3 mg/dLもしくは±50%以上変化している場合にチェックしてください。
– 急性腎障害リスク保有: バンコマイシン治療中では、ICU在室、利尿剤使用、Tazobactam/piperacillin使用の場合にチェックしてください。
– 投与歴:長期治療例では入力枠が限られますが、あまり長い投与歴を入力してもシミュレーション精度は向上せず、むしろ病態変化により低下する可能性があります。通常、今回のTDMの2回前(過去1週間程度)までの投与歴とその間に測定した血中濃度を使用します。とくに治療開始後、腎機能(血清クレアチニン値など)の変化を認め、TDM結果で投与設計を変更した場合、今回のTDM前の投与設計と今回の血中濃度のみを残し解析します。十分に血中濃度が定常状態に達していると考えられる場合、直近の投与歴の繰り返し回数を「SS」として解析してください。
– 引用文献
1. Rybak MJ, Le J, Lodise TP, et al. Therapeutic monitoring of vancomycin for serious methicillin-resistant Staphylococcus aureus i nfections: A revised consensus guideline and review of the American Society of Health-System Pharmacists, the Infectious Diseases Society of America, the Pediatric Infectious Diseases Society, and the Society of Infectious Diseases Pharmacists. Am J Health Syst Pharm. 2020; 77: 835–64.
2.Oda K, Matsumoto K, Shoji K, Shigemi A, Kawamura H, Takahashi Y, Katanoda T, Hashiguchi Y, Jono H, Saito H, Takesue Y, Kimura T. Validation and development of population pharmacokinetic model of vancomycin using a real-world database from a nationwide free web application. J Infect Chemother. 2024 Dec;30(12):1244-1251.
3. Le J, Bradley JS, Murray W, et al. Improved vancomycin dosing in children using area under the curve exposure. Pediatr Infect Dis J. 2013; 32: e155–63.
4. Yasuhara M, Iga T, Zenda H, et al. Population pharmacokinetics of vancomycin in Japanese adult patients. Ther Drug Monit. 1998; 20: 139–148.
5. Alqahtani SA, Alsultan AS, Alqattan HM, et al. Population Pharmacokinetic Model for Vancomycin Used in Open Heart Surgery: Model-Based Evaluation of Standard Dosing Regimens. Antimicrob Agents Chemother. 2018; 62: e00088–18.
6. Mizuno T, Mizokami F, Fukami K, et al. The influence of severe hypoalbuminemia on the half-life of vancomycin in elderly patients with methicillin-resistant Staphylococcus aureus hospital-acquired pneumonia. Clin Interv Aging. 2013; 8: 1323–8.
7. Kim SH, Kang CI, Lee SH, et al. Weight-based vancomycin loading strategy may not improve achievement of optimal vancomycin concentration in patients with preserved renal function. J Chemother. 2021; 33: 56–61.
8. Horio M, Imai E, Yasuda Y, Watanabe T, Matsuo S; Collaborators Developing the Japanese Equation for Estimated GFR. GFR estimation using standardized serum cystatin C in Japan. Am J Kidney Dis. 2013 Feb;61(2):197-203.
9. Du Bois D, Du Bois EF. A formula to estimate the approximate surface area if height and weight be known. 1916. Nutrition. 1989 Sep-Oct;5(5):303-11; discussion 312-3. PMID: 2520314.
10. 腎臓病薬物療法学会ホームページ(https://www.jsnp.org/egfr/、2022年10月6日アクセス)